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防衛装備品の開発方式をアジャイル型へ変更
2023年9月25日の日経新聞で「防衛装備品 使いながら改良」という記事がありました。
防衛省・自衛隊は2023年度中に防衛装備の研究開発から実用までの期間を短縮するしくみを取り入れる。
実用試験を重ね量産する前の段階で性能が限定的な試作品をまず部隊に配備する。
使いながら改良し量産を目指す。
急速に進歩する民間の先端技術をすぐ反映させ抑止力を高める。
日経新聞(2023年9月25日)
これまでの装備品開発は、ウォーターフォール型という段階的に開発工程を完了させて進めていく方式で主流でした。
「完了」というのがポイントで、各段階で分析~設計~製造~検査~試験といった一連の開発工程をきちんと完了させてから次の開発工程へ進む、そして量産確認試験までを完了してから部隊に配備するのです。
時間はかかりますが、手戻りが少なく進捗管理や品質保証が明解で大規模開発に適した開発方式であるため、防衛装備品の開発方式の主流であり続けたのです。
一方、IT技術の進展が戦闘様相を大きく変える時代を迎え、ウォーターフォール型よりも最新技術の早期導入が容易な開発方式が求められるようになってきました。
日経新聞の記事では、初めて防衛装備品の開発方式を変更(ウォーターフォール型からアジャイル型へ)するような内容となっていましたが、IT革命から約30年間もウォーターフォール型に固執していたはずも無く、「段階的に先端技術反映」「使いながら改良」といった開発方式は、各種装備品の特性に応じて柔軟に選択されていたのです。
スパイラル型
開発方式の特徴
逐次に最新の民生技術を取り入れるとともに、装備品を運用しつつ性能向上を図ることができるよう継続的な改善を実施する方式。
この逐次改善を繰り返す流れをスパイラル(螺旋)に例えて、スパイラル型開発と呼びます。
特にシステム装備品の開発においては、運用者が使用することによって当初には無かった新たな運用ニーズが発生することが多く、これに対応するためスパイラル手法が必要となります。
つまり、運用ニーズ・技術シーズの両面において、最新のものを逐次反映できることが特徴です。
開発された装備品の例
前述のとおり、システム装備品に多く適用されています。
- 師団等指揮システム
- 対空戦闘指揮統制システム
- 火力戦闘指揮統制システム
進化的開発
開発方式の特徴
細部の運用ニーズ(装備品に求める機能・性能)が未確定でも開発着手し、開発を進めながら技術的成果を踏まえて運用ニーズを逐次明確化していく方式。
部隊で使いながら最新の運用・技術を逐次反映するのがスパイラル型であるのに対して、開発を進めながら最新の運用・技術を逐次反映するのが進化的開発です。
開発期間中にスパイラル手法を用いることが特徴で、部隊へ配備してから逐次改善することが適さない装備品、例えば殺傷能力を有する装備品であり早期配備に大きなリスクが伴う開発に適用することができます。
開発された装備品の例
弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル「SM-3 ブロック2A」(日米共同開発)
運用実証型
開発方式の特徴
最新の科学技術を取り込み速やかに装備化するため、新しい機能を有する装備品のプロトタイプを作り、プロトタイプを運用しながら評価し、じ後の開発に成果反映する方式。
プロトタイプの完成度によっては、じ後の開発を経ることなく、早期装備化が可能となります。
開発された装備品の例
最新の科学技術の取り込みに期待したもの(高速滑空弾(開発中)など)と、開発期間の短縮に期待したもの(ソフトウェア無線機用の統合通信ソフトウェアなど)に大別されます。
アジャイル型
開発方式の特徴
開発から運用までの期間を短縮するため、性能が限定的な試作品を早めに部隊へ配備して、運用しながら最新の技術を段階的に反映する方式。
民間のソフトウェア開発などでは既に主流の方式ですが、防衛装備品の開発では期間短縮や段階的技術反映を上記の「スパイラル型」「進化的開発」「運用実証型」などの開発方式で実現していたため、これまで採用されておらず新しい試みとなります。
装備品開発では品質保証を重視すべき
防衛装備品の開発方式を紹介させていただきました。いろいろな方式がありますが、その目指すところは「開発期間の短縮(早期装備化)」「最新技術や新しい運用ニーズの逐次反映」ということで一貫しています。
複数の開発方式が存在するのは、一口に防衛装備品と申しても、ハードウェアからソフトウェア、小規模から大規模、殺傷能力の有無等、開発対象が広範多岐にわたるからにほかなりません。
いずれにしましても、防衛装備品は人命を左右する存在です。
直接的に殺傷能力を有さない指揮統制システム(IT機器の集合体)のような装備品でも、システムが誤動作すれば、人間も判断を誤って、結果として人命を危うくするのです。
指揮する先には殺傷能力を有する装備品が存在するのですから。
つまり、装備品開発では品質保証が極めて重要となります。
最先端技術やユーザーニーズの早期導入・逐次反映といった理想は防衛装備品でも民生品でも同じです。
民生品もライバルに一歩でも先んじておかなければ、経済競争に負けてしまいます。
しかし、「早期・逐次」と急ぐがあまり品質保証まで「逐次に不具合改修」となってしまっては、民生品であればリコール騒動が待っています。
防衛装備品であれば、民生品とは比較にならない大惨事になりかねません。
では品質保証を万全にするためにはどうすればよいか。
当たり前のことですが、しっかりとした検査や試験を実施することに尽きます。
相当の期間を要しますが、防衛装備品である以上、ここは絶対に「効率化」してはならない工程です。
アジャイル型の狙いである「使いながら改良」が、いつの間にか「使いながら不具合改修」とならないよう、部隊配備前の品質保証は重視してほしいです。