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信託報酬の安いS&P500投資信託が多数誕生
2022年以前、主につみたてNISAやiDeCoで投資されていたS&P500投資信託は、「信託報酬の安さ」と「純資産額の大きさ」を兼ね揃えたeMAXIS Slim S&P500の一人勝ち状態でした。
eMAXIS Slimシリーズは、継続的に最低水準の信託報酬に修正するとしており、実際にSBI・V・S&P500が信託報酬最安値(当時)で新規設定された時には、即座に信託報酬を値下げして最低水準の座を奪い返すなど、低コストのインデックスファンドとして絶対的な地位を築いていました。
しかし、新NISA開始前年の2023年に、eMAXIS Slim S&P500より信託報酬が安いS&P500投資信託が次々と設定されたのですが、今までのところ業界最低水準への修正はなされていません。
もし、eMAXIS Slim S&P500がこれまでのように、継続的に最低水準の信託報酬に修正するというファンド運営を続けていたならば、当記事のように「S&P500投資信託の比較」などする余地も無く、新NISAのS&P500投資信託はeMAXIS Slim S&P500一択!で終わりでした。
S&P500という同じ指数に連動する投資信託であれば、信託報酬の低いインデックスファンドを選択するというのがセオリーです。
新NISAやiDeCoのような長期保有(時間・運用益が大きくなるため、信託報酬の影響も大きい)を前提とする投資であれば、なおのことです。
残念ながらeMAXIS Slim S&P500に信託報酬値下げの動きは今のところ無さそうなので、信託報酬の安い楽天・S&P500などの後発ファンドを含めた最良の選択肢を求めて銘柄比較を実施することにしました。
S&P500投資信託の比較(2024.9)
S&P500投資信託のうち、信託報酬が0.1%以下に設定されているファンドを対象に比較を行いました。
2024年9月時点における、S&P500投資信託の信託報酬や純資産額等は表のとおりです。
ファンド (運用会社) | 購入可能な ネット証券 | 信託報酬 | 純資産額 (百万円) | 運用年数 |
eMAXIS Slim S&P500 (三菱UFJ) | SBI、楽天、 マネックス、 auカブコム等 | 0.09372% | 4,991,623 | 6年 |
SBI・V・S&P500 (SBI) | SBI、マネックス、 auカブコム等 | 0.0938% | 1,679,984 | 4年 |
たわらノーロード S&P500 (アセマネOne) | SBI、楽天、 マネックス、 auカブコム等 | 0.09372% | 51,299 | 1年 |
はじめてのNISA・S&P500 (野村) | SBI、マネックス、 auカブコム等 | 0.09372% | 20,694 | 1年 |
楽天・S&P500 (楽天) | 楽天 | 0.077% | 256,805 | 0年 |
※ 上から運用年数(設定日)順に記載
楽天・S&P500:iDeCo対象商品となり資金流入が加速
新NISA開始以降、楽天・S&P500への資金流入が加速し、後発S&P500ファンドの中では圧倒的な純資産額になりました。
さらに2024年1月26日から、楽天・S&P500がiDeCo対象商品に追加されました。
楽天S&P500と楽天オルカンはiDeCo対象商品に追加されるか
Contents楽天S&P500と楽天オルカンが新登場楽天投信残高ポイントプログラムが限定復活低コストファンドが揃うS&P500系とオルカン系投資信託楽天S&P500と楽天オル ...
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これにより、後発S&P500ファンドの弱点である純資産額の少なさが、楽天・S&P500に関しては解決されていくと思います。
理由は、楽天証券iDeCoにおいて、指数は違いますが同じ米国株ファンドである楽天VTIから楽天・S&P500へのスイッチングが予想されるからです。
楽天VTIはもちろん人気の高いファンドなのですが、いかんせん信託報酬が割高(設定当時は安かったのですが)なので、楽天・S&P500へのスイッチングが加速するでしょう。
iDeCoは、スイッチングの操作が簡単なのも追い風ですね。
そうなると、純資産額をめぐる状況はどうなるか。
上記の表のように、現在のS&P500ファンドの純資産額ランキング上位3銘柄は、
- eMAXIS Slim S&P500: 4,991,623百万円
- SBI・V・S&P500: 1,679,984百万円
- 楽天・S&P500: 256,805百万円
となっています。
運用年数の差が大きいので、1位と2位が突出してる状況です。
さて、楽天VTIは人気ファンドであり運用年数も長いため、純資産額は1,541,146百万円と、ちょうどSBI・V・S&P500と同等の規模を有しています。
この金額を単純に3位の楽天・S&P500と合計すると、純資産額は1,797,951百万円となり、ランキングの順位が入れ替わります。
- eMAXIS Slim S&P500:4,991,623百万円
- 楽天・S&P500+楽天VTI:1,797,951百万円
- SBI・V・S&P500: 1,679,984百万円
もちろん、楽天VTIの全てが楽天・S&P500にスイッチングされるわけではありませんし、逆に他のファンド(先進国株式等)から楽天・S&P500にスイッチングしてくる分もあるでしょうから、現時点ではこの数字が多いとも少ないとも言い切れません。
ただ、上位2銘柄と競うレベルまで純資産額を増やせたなら、隠れコストも相当に抑制できるでしょう。
しかし、改良して欲しい点もあります。
それは、現在は楽天証券でしか取り扱いが無いことです。
もちろん、このファンド設定の当初目的が、新NISA開始に伴う楽天証券(楽天経済圏)ユーザーの確保・増加にあったことは、それで良いと思います。
しかし、2024年9月となり、新NISAが開始して9か月近く経過しました。
NISAは1度でも取引があると、その年は証券会社変更はできないため、当初目的はある程度達成されたのではないでしょうか。
次は、他の証券会社での取り扱いを実現することで、楽天・S&P500の純資産額拡大に注力し、ファンド投資家への還元(隠れコスト抑制、トラッキング精度向上、さらなるコスト低減)に挑戦して欲しいと思います。
eMAXIS Slim S&P500が信託報酬を下げなかった理由を考察
2023年前半までは、eMAXIS Slim S&P500は業界最安値の信託報酬を維持すべく、安い競合ファンドが設定される都度に信託報酬を下げてきました。
それが新NISA開始直前の2023年後半になって、eMAXIS Slim S&P500が信託報酬を下げなかった理由を、私なりに考えてみたのですが、
① 現在の0.09372%がS&P500投資信託の信託報酬限界値であり、これ以上安くすると安定したファンド運営ができず、むしろ後発ファンドが無理な設定をしている(そうであれば、いずれ隠れコストで判明する)
② 現在の信託報酬でも後発ファンドより資金流入が多い地位を確保しており、ファンドの利益を犠牲にしてまで信託報酬を下げる必要が無い(純資産額が桁違いに大きいファンドだけに、わずかなコスト低減でも大きな利益減となってしまう)
③ もうしばらく様子を見てから判断(積極的に低コスト化を牽引するのではなく、競合ファンドがeMAXIS Slim S&P500への資金流入を脅かす存在になった時に限り低コスト修正する)
思いつくのはこの3つくらいでした。
「①」であるか否かは、後発ファンドが設定後1年程度経過して隠れコストが計算できるようになれば、明らかになります。
信託報酬と隠れコストを合計すると、後発ファンドよりeMAXIS Slim S&P500の方が低コストだったとなれば、理由は「①」と言えるでしょう。
もし隠れコストが大きくなかったという結果になれば、理由は「②」か「③」なのかなと思います。
しかし、「②」はもちろんのこと、「③」であったとしても、ちょっと残念です。
4~5年前のeMAXIS Slim S&P500は、楽天VTIやSBI・V・S&P500と信託報酬を競っていて、業界最安値で競争を勝ち抜きました。
現在のeMAXIS Slim S&P500は、S&P500ファンドの絶対的王者に君臨してしまったがゆえに、業界最安値は追求せず、圧倒的な純資産額とブランド力で勝負するスタンスに変わってしまったのでしょうか。
eMAXIS Slimシリーズの信託報酬に関する考え方が発表されました
eMAXIS Slimシリーズを運営する三菱UFJアセットマネジメント株式会社から、2024年3月6日付で、
『eMAXIS Slim(イーマクシス スリム)』シリーズの信託報酬に関する考え方について
というレターが発表されました。
要約すると、レター中にある次の1文になると思います。
該類似ファンドの運用報告書等の各種開示情報を比較検討し運用コストが比較可能になりましたのち、適切な判断を行う予定です。
ということは、本記事で言及した「eMAXIS Slim S&P500が信託報酬を下げなかった理由①~③」のうち、
- 考え方としては①(後発ファンドが無理な設定をしている(いずれ隠れコストで判明する))
- 行動としては③(もうしばらく様子を見てから判断)
という趣旨のレターでした。
これまでは、後発ファンドの運用報告書等の開示を待つまでも無く、速やかに信託報酬を下げてきたのですが、今回は①について確信があるのでしょうか。
いずれにせよ、もうしばらくして運用報告書等が開示されれば、隠れコストの大小も判明しますので、投資先の変更の要否は、その時点で判断しようと思います。
NASDAQ100投資信託では、eMAXIS NASDAQ100の信託報酬を、運用年数1年が経過したニッセイNASDAQ100の信託報酬に合わせて引き下げました。
S&P500投資信託でも、eMAXIS Slim S&P500の信託報酬を、楽天・S&P500の運用年数1年となる2024年末には引き下げることに期待しましょう。
米国のS&P500ETF:SPYとVOOの関係が、eMAXISと楽天の関係に類似
米国のS&P500ETF、日本ではバンガード社のVOOが有名ですが、VOOは後発ETFであり、本家本元のS&P500ETFはステートストリート社のSPYです。
SPYの経費率が0.09%で、当時としては安い経費率で人気を博し、長い歴史の中で莫大な純資産額を積み上げてきました。
後発ETFのVOOが経費率0.03%と破格の低コストで設定されても、SPYは老舗のブランド力で純資産額1位のまま経費率を下げることなく現在に至っています。
もちろん、純資産額の大きさに応じて指数の使用料が異なるのですが、今となってはもうVOOの純資産額も十分に大きいですからね・・・
- SPY = eMAXIS Slim S&P500
- VOO = 楽天・S&P500
もし米国の前例が当てはまるのならば、日本のS&P500ファンドの信託報酬が、このまま固定化されてしまう可能性も否定できません。
一方、eMAXIS Slim S&P500が、これまでずっと信託報酬低コストのフラッグシップであったことは確かな事実です。
今回の予想はいい方向に外れて、eMAXIS Slim S&P500が信託報酬を0.077%以下に下げてくれることを期待しています。
なお、信託報酬の差が長期投資に及ぼす影響についてシミュレーションした結果を関連記事にまとめておりますので、具体的な運用益の差に興味がある方はご覧ください。
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